第7回 情報をどう見極める?
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2017年11月19日 東京朝刊掲載
7年前に、新聞社からメディアの健康情報の見極め方について初めて取材を受けて、記事が掲載されました。記事では、ちょうど開設したばかりのサイト「健康を決める力」を紹介してもらいました。健康情報を入手して活用する力であるヘルスリテラシーについて解説したサイトです。ところが、記者の方から、メールで「近くのページに『○○が××に効く』という怪しげな広告が載ってしまいました」と連絡がありました。記事が果たして広告を見る上で役に立ったのかが気になりました。
そしてちょうど1年前、医療サイトの不正確な記事が問題になって、たくさん取材がありました。騒動をどう思うか、どう対処すればよいかという取材でした。ネットの健康情報については以前から似たような状態だったので、問題にならないと注目されないことがよくわかりました。
取材に来る方は「健康を決める力」を見てという方が多く、中には「読んでファンになりました。お会いしたかったです」と言う方もいました。「信頼できる情報」とは科学的根拠(エビデンス)が明確な情報を指すことなどをわかりやすく説明してありますが(図)、日本ではそのような内容の市民や患者向けのサイトが少ないからだと思います。
取材では、すぐに使える見極めの技を求められがちですが、工夫はできても、本来は子供の頃から身に着けておくべき力です。なかなか急には難しいです。ある医学部の3年生を対象にした調査でさえ、結果は決してヘルスリテラシーが高いとは言えませんでした。彼らの感想は、学ぶ機会がなかったというものでした。
ヘルスリテラシーは、個人の能力と環境の相互作用でつくられます。信頼できる情報を手に入れるのが難しい環境だと、その能力は身に着けにくく、逆に能力が低くても、容易に手に入れられる環境であれば身に着く機会が増えます。
では、情報が入手しやすく学びやすい環境に変えるにはどうしたらよいのでしょうか。実はヘルスリテラシーは、自分個人のためだけでなく周囲や社会に働きかける能力でもあります。情報を求めても得られない、わかっていても行動に移せる環境ではないという理由で、あきらめて沈黙している方はいないでしょうか。たとえ不利な状況に置かれても沈黙するのではなく、環境を変えるために行動できる能力もヘルスリテラシーです。
最近また、取材の依頼がなくなりましたが(飽きられた?)、健康情報の見極め方はどれほど普及したでしょうか。喉元過ぎれば、では環境は変わらないです。
(次回は12月24日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について