第4回 その情報、信頼できる?
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2017年8月6日 東京朝刊掲載
健康情報をネットで調べる授業で、顔のしわ取りなどで注射する「ボトックス」(芸能人で利用が多いとか)に関する発表がありました。検索結果には美容医療の広告サイトが並び「安全性」を追加しても結果は変わりませんでした。
ヘルスリテラシーとは、健康や医療の情報を入手し、理解し、評価して、適切に決められる力で、スタートは情報の入手です。信頼できる情報源がなければ、その力も発揮できません。そこで私たちは昨年、全国の約1000人を対象に、情報源に関する調査を行いました。今後、必要になったら必ず利用したい情報源として、断然トップの約8割が選んだのは、グーグル(Google)などの検索サイトでした。厚生労働省や研究所などの信頼できるサイトも選択肢にあげましたが、1~2割しか選びませんでした。誰もが知るような、ここぞというサイトは無いようです。
しかし検索サイトで上位にヒットしても信頼できる保証はありません。昨年、医療サイトの不正確な記事が問題になったように、質が低くても、工夫で上位に出せるのです。その工夫をSEO(検索エンジン最適化)対策と言います。逆にこれが不十分だと、税金を使って専門家らが一般市民向けに作成したサイトも見てもらえません。以前、学会で専門家らにSEO対策の必要性を述べましたが、「それは何ですか」という反応でした。存在が知られていない上、表示の順序のしくみは非公開なので素人には理解が難しいのです。
では、検索で見つかる情報の信頼性をチェックする方法はないでしょうか。私の大学のプロジェクトで「い・な・か・も・ち」という方法を考案しました=表。「いなかも」は20年前に米国医師会が、患者がネットを通じて、医療者並みの医療情報を得る際に不可欠、と提示した4条件と同じです。文字を入れ替えると、「か・ち・も・な・い」(確認しないと情報に価値もない)になります。
しかし、なぜ患者や市民がこのような努力をしなければならないのでしょう。授業では「botox」と英語で検索してもらいました。すると米国立医学図書館が国民向けに、わかりやすく医療情報を提供するサイト「MedlinePlus」(メドラインプラス)がヒットしました。その用途や副作用の簡潔な説明、関連する学会や組織による解説、ビデオ、論文などの情報源が入手できます。日本には、このようなサイトがありません。この違いを見るたび、眉間(みけん)のしわが深くなります。
(次回は9月10日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について