第1回 膨大な情報、適切に選択
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2017年4月23日 東京朝刊掲載
健康を決める力(https://www.healthliteracy.jp/)
子供の頃、ぜんそくやへんとう炎でよく学校を休みました。家では、ミミズの煎じ薬を鼻をつまんで飲みました。数年前、母親にあなたミミズ好きだったわねと言われて、ショックでした。何も決められない自分がいました。それでも、胸に手を当てるとゼーゼーが楽になる気がしました。
中学では、誘われるままサッカー部に入りました。クタクタで帰って寝てしまうので、体が弱いのだからやめなさいと言われました。それでも学校を休まなくなり、もう自分で決めていいのではと思いました。
大学では、就職が全く決められず、誘われるまま大学院に進みました。その頃、女性に「ほんと決められない人ね」とグサリ。胸に手を当てて考えました。
そんな私は、ヘルスリテラシーを研究しています。それは健康や医療の情報を入手し、理解し、評価して、適切に決められる力です。自分にないものを研究することは、意外にあることです。決められる人は、決めればよいだけですから。
リテラシーとは読み書き能力のことですが、社会に参加して、自分の潜在的な力を引き出して自己実現できる力で、人間の尊厳を表すものです。健康情報の読み書きでも同じで、ヘルスリテラシーは健康や生命と密接につながっています。
ヘルスリテラシーが注目される理由は、専門化が進んで選択肢や情報が増えた中で、それが低いと健康状態がよくない、それが健康格差の要因であることが明らかになってきたからです。今や途上国を含めて、私たちの健康を決めている最大の要因は、ライフスタイルや行動の選択です。そのため、生活習慣病の予防や、その進行を抑えるための選択肢や情報が増え続けています。わかりやすくて信頼できて自分に合った情報がないと、適切に決められないのです。
私たちの調査では、日本人のヘルスリテラシーは、欧州8カ国やアジア6カ国と比較して最も低いものでした。理解できたとしても、判断したり決めたりするのが難しい傾向がありました。決められないのは私だけではないようです。これらは個人の能力だけではなく、環境にもよります。
自分の人生について、胸に手を当てて、心の声を聴いて、自分で決められれば幸せだと思うようになりました。そのためヘルスリテラシーを「健康を決める力」と呼びました。私たちは、まだまだ学ぶ必要があるようです。その手助けのためにサイトを作りましたので、ぜひご覧ください。
(次回は5月28日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について