第41回 ヘルスリテラシーを
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2021年2月11日 東京朝刊
紙面での連載も最終回となりました。ありがとうございました。初回を振り返ると、ぜんそくの子どもが物事を決められない大人に育ったが、それは自分だけではなかったとあります。私たちの調査では日本人のヘルスリテラシー(健康・医療情報を入手、理解、評価し、適切に決められる力)が低く、特に判断したり、意思決定したりするのが難しい傾向だったからです。
この調査を実施し、新聞でも紹介されたのは2014年でした。当時は、ヘルスリテラシーという言葉は、本紙でもカッコで囲われました。それが最近は、メディアでよく登場します。先日は、政治家の石破茂さんが、日本人のヘルスリテラシーの低さと自らが判断する姿勢への期待に言及していて、おおと思いました。
そして17年に連載を開始し、まず、情報の信頼性を評価する方法である、「かちもない」=(1)書いた人は誰(2)違う情報との比較(3)元ネタは(4)何のため(5)いつ、を紹介しました。
しかし、信頼できる情報さえあれば決められるとは限りません。正しい答えを求めても、よく調べれば選択肢があり、それぞれの長所と短所を知り、価値観に合ったものを選ぶことが大切です。そして、そうした意思決定こそが、自分らしく生きる幸せにつながると書きました。
ただし、こうした国際的に推奨されている方法が、ヘルスリテラシーとどう結びつくのかという十分なエビデンス(科学的根拠)はない状況です。さらに、現在のような緊急事態宣言下でも、冷静で適切な行動につながるかです。そのため、新たな研究を進めていて、結果はサイト「健康を決める力」でも紹介します。
ヘルスリテラシーの低さは、自助・共助・公助でも、学ぶ機会や環境に恵まれなかったからです。そもそもリテラシーとは人権です。世界中の国がこぞって施策を講じているのは、その低さを嘆き責めるためではありません。学歴などを問わず、伝わっていたはずの情報が伝わっておらず、健康格差の要因だったことへの衝撃からです。対象に合わせたコミュニケーションと意思決定の支援が不可欠です。そうした社会に変える力もヘルスリテラシーと呼ばれます。
決められないままの夢想家で終わるのも一つの選択肢かもしれませんが、一人でも多くの方の参加を希望します。
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について