第39回 元ネタ増やす努力
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2020年12月10日 東京朝刊
先日、海外の学術雑誌に論文が採択されてホッとしました。2月に原稿を送り、新型コロナのためか、査読(同じ分野の研究者による評価)の2人のコメントが届いたのは7月でした。たくさんの指摘を受けて、落ち込みつつ修正しました。追加で登場した3人目の査読者の偏った意見にもデータを提示して冷静に反論した結果です(このやりとりもオープンになります)。
このような(時につらい)過程を経て、信頼できる情報のほんの一つの元ネタ(エビデンス=科学的根拠)が作られ、積み重ねられます。
論文のテーマは、前立腺がんの患者が治療法として選べる選択肢の利点と欠点を理解し、自分が最も良いと思えるものを選択するための支援でした。それはシェアードディシジョンメーキング(SDM、協働的意思決定)であり、その実施状況を測定しました。国際的には、既に測定されて研究や実践に生かされていますが、日本ではこれからです。今回は、患者がSDMに必要な九つのステップを経験したか尋ね、それぞれ「よく当てはまる=5点」から「全くあてはまらない=0点」で回答を得ました(ドイツで開発されたSDM―Q―9の日本語版)。
9項目を順に見ます。(1)医師は、治療に関して何らかの決定をしなければならないことがあるということを、明確に伝えてくれた(2)医師は、私がどのように決定に関わりたいかを丁寧に確認をしてくれた(3)医師は、病状に対してさまざまな治療の選択肢があることを伝えてくれた(4)医師は、それぞれの選択肢におけるメリット(利点)とデメリット(欠点)を明確に説明してくれた(5)医師は、(説明された)全ての情報を理解できるように私をサポートしてくれた(6)医師は、私が治療においてどの選択肢を希望するのか聞いてくれた(7)医師と私は、それぞれの治療方法について徹底的に比較検討した(8)医師と私は、一緒に治療上の選択肢を選んだ(9)医師と私は、今後の治療の進め方について合意した。
これらの合計点を出し、高い人ほど意思決定の満足度などが高いことを確認しました。皆さんはSDMを望みますか。今後の選択肢として、病気の治療のみならず、ワクチンの接種ではどうでしょう。SDMの普及のためには研究で元ネタを増やし、わかりやすく広く紹介していく必要があります。=次回は2月11日掲載
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について