第35回 高齢者のコロナ対策
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2020年8月13日 東京朝刊
先月、新型コロナウイルスによる国内の死者が1000人を超え、70歳以上が約8割という記事が目を引きました。私は来年還暦なので、60歳以上での割合はどうなのかと厚生労働省のデータで確認すると、95%でした(7月29日現在)。すでに専門家が指摘していますが、重症化率や死亡率が急上昇するのは60歳程度が目安のようです。在宅勤務の徹底など、感染リスクに配慮した選択肢を選べる支援が不可欠です。
高齢になるとヘルスリテラシーの不足が健康に強く影響するとされます。私も呼吸器系に難がありますが、慢性疾患を持つ人が増えるからです。高齢化が進む日本では持病による重症化リスクを抱える人口の割合が33%で、世界平均を大きく上回ると報告されています。
さらに、認知的・心理的な変化が起こります。そのため、自己管理やケアの選択肢を選ぶという意思決定が難しくなります。
認知的な変化が起こると、新しい情報を学ぶのに時間がかかるようになります。必要な推論力、思考力、暗記力、集中力などが低下するからです。したがって、何か教える時は、学ぶ人のペースに合わせて、情報を小分けにして休みを挟みながら行い、先に進む時は振り返って理解を確認してからにする必要があります。
また、抽象的概念の理解が難しくなるので、「よく手を洗う」「十分に換気」よりは、具体的に時間や方法を示します。「クラスター」「ウィズ」「漸増段階」より、普段使う言葉にします。理解ができないと、肯定的な態度をとれず、自信も持てず、適切な行動がとれません。
心理的な変化では、身近な人や役割の喪失を経験して、自尊感情の低下やうつにより、学ぶ意欲が低下します。そのため、積み上げてきた成功体験など楽しい思い出に目を向けます。「以前こうしたらうまくいったよ」といったできごとに関連づけて情報提供をします。
社会が年を取ることを、どうとらえているかも影響します。自分がネガティブな存在で、受け入れられていないと感じると、孤立感が生じてしまいます。人生経験をポジティブに捉えられるような新たな学びにより、その人らしい納得できる意思決定が望まれます。それを支援するコミュニケーションができる力もヘルスリテラシーです。
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について