第31回 「からだ」「こころ」「社会」
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2020年4月16日 東京朝刊掲載
新型コロナウイルス対策で、先月の公衆衛生学の授業は急きょ自宅学習になりました。公衆衛生をわかりやすく言うと「みんなの健康」です。人間の歴史を通じて、人の移動や密集は病気のまん延につながり、未知の病気が正しく理解されないうちは、まず存在が否定され、特定の誰かのせいにされ、インチキ医療がはやり、犠牲者であるはずの患者が排除されるという悲劇が繰り返されます。他方、ナイチンゲールは、まだ細菌もウイルスも見えない時代に、病気の発生状況を数値で見える化し、「みんな」で取り組む必要性を示しました。
学問は発展し、今回は3密(密閉・密集・密接)を避け距離を2メートル取り、手洗いとせきエチケットで流行を抑えられるとされています。あとは「みんな」が理解して日々適切な意思決定をするヘルスリテラシーが問われます。
しかし、誰もがその力を持つわけではありません。かといって十分にないのは本人の責任でもありません。だからこそ、それが不足する人々の存在に気づき、誰もが意思決定できるまであきらめずにわかりやすいコミュニケーションをとり続けることが求められています。理解を確認する方法は、自分の言葉で説明できるかです。理解できていても行動に移せない状況の人々には、バリアーを取り除く手助けが必要です。
今やヘルスリテラシーがある人とは、それに困難がある人を責めたり差別したりせず、適切な意思決定ができるように支援して、「みんなの健康」をつくれる人を指します。
メディアによる各種の思いがこもった情報を見続けると、つらくなります。そんな時は、今できることと共に「健康とは何か」を前向きに考えます。それは「からだ」「こころ」「みんな(社会)」の三つが密に重なったものです。
「からだ」は、体調管理や病気の予防をし、体調を崩してもうまく対処する意思決定ができること。「こころ」は、問題や困難を乗り越え、人生の意味が見いだせるような自分らしい意思決定をして、それを幸せだと感じられること。「みんな」は、困難に直面している人たちを孤立させず、適切な意思決定ができるよう互いに協力し、喜び合い、信頼関係をつくることです。「みんな」の力で「みんなの健康」をつくりましょう。=次回は6月11日掲載
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について