毎日新聞コラム「健康を決める力」

第29回 意思決定への自信を測る

毎日新聞コラム「健康を決める力」

毎日新聞 2020年1月22日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 先週の連休にインフルエンザになりました。40度を超えて、これまで見たハリウッド映画で街中のビルがゆがんだり崩れたりするシーンが延々と続く悪夢を見るなど、最高にきつかったです。3日目からか寝ながらスマホの画面で見られそうに思ったのは大人気のアニメ「鬼滅の刃」でした。元は人間だった鬼に家族を皆殺しにされ、唯一生き残ったものの鬼になってしまった妹を人間に戻すために剣士として戦うという話です。腰痛を忘れてあっという間に見てしまいました。

 中でも、意思決定の視点から印象に残ったのは、幼少期の貧困と虐待の経験を背景として、指示されていないことはコインを投げて決めるという剣士の話でした。その理由を尋ねると「全部どうでもいいから、自分で決められないの」と答える彼女に対し、主人公が「この世にどうでもいいことなんてないよ、きっと心の声が小さいんだろうな」「これから自分の心の声をよく聞くように」「人は心が原動力だから」と応援します。

 家族の虐待のようにストレスを受けてそこから長く逃れられないことで、何をやっても無駄だと学習してしまうことを学習性無力感と言います。急に自分で決める自由を与えられても決められないこともあるでしょう。そんな時は、自分で決めていいんだと思えるところから、実際に決めるところまでのサポートが必要です。自分で決められるという自信を得るには、何よりも自分でうまく決められたと思える経験を積み重ねることが大切です。

 正しく信頼できる健康情報が手に入って選択肢の長所と短所を知っても、自分が何を最も大事にしているのかなど心の声がはっきりしないと決められません。そして、決められたとしても、うまく決められたのかが気になります。そこで、意思決定への自信を測るものとして「SURE test」があります。最初は「最も良い選択だという自信があるか」で、最後は「支援や助言があるか」です。使い方は、1問でも「いいえ」だとダメで、全部「はい」になるまで情報を得たりサポートを得たりします。病院の医師に紹介すると、うちの病院に導入したいと言われます。どなたでも使えるので、ぜひどうぞ。

 昔から鬼は疫病神として疫病の原因とされました。鬼が家に入ると病気になるので「鬼は外」です。節分の頃は最も寒く病気にかかりやすいのでご注意ください(鬼らしき人にも)。

次回は2月26日掲載


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SURE test

(1)あなたにとって最も良い選択だという自信がありますか?
   はい   いいえ

(2)あなたはそれぞれの選択肢の利益とリスク(危険性)を知っていますか?
   はい   いいえ

(3)あなたにとって、どの利益とリスク(危険性)が最も重要であるかはっきりしていますか?
   はい   いいえ

(4)選択をするための十分な支援と助言がありますか?
   はい   いいえ

※日本語訳 大坂和可子氏ら(2019)

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