第28回 行動できるかが大事
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2019年12月11日 東京朝刊掲載
お笑い芸人の小籔(こやぶ)千豊(かずとよ)さんが患者の姿で眉を寄せる厚生労働省のポスターが、患者団体などから批判され中止になりました。人生の最終段階でどのような医療やケアを受けるか、事前に本人が家族や医師らと繰り返し話し合う「人生会議」の普及啓発が目的でした。ヘルスリテラシーに配慮したコミュニケーションでは、企画段階から当事者に参加してもらうのが原則なので、そのことについて知りたいと思いました。
そもそも世界でヘルスリテラシーが注目されるのは、専門家と非専門家のコミュニケーションがうまくいっていなかったためです。今や、それがうまくできる医療者を「ヘルスリテラシーのある医療者」と呼びます。米国医学アカデミーは、その研究を20年以上重ねて、ヘルスリテラシーのある組織が持つ10の特徴を発表しました。組織とは病院や診療所のみならず、健康や医療に関連する企業や行政なども当てはまります。
その特徴の中には、「健康情報・サービスのデザイン、提供、評価のときに、対象者に参加してもらう」という項目があります。さらに、「印刷物、ビデオ、ソーシャルメディアの内容は、わかりやすく、すぐに行動に移せるようにデザインして配る」という項目もあります。ポスターの作製であれば、ヘルスリテラシーが低い人を含めて、多様な対象者に参加してもらい、厳しいユーザーテストをすることが必要とされています。
気になるのは、対象者の参加やテストもさることながら、行動に移せるかです。行動のためには、何をするかがわかる動詞を使うことが求められています。例えば「インフルエンザに注意しましょう」ではなく、「こまめに手を洗いましょう」とするわけです。今回のポスターでは「『人生会議』しとこ」とあり、その意味が書かれていましたが、実際に行動できるかです。
その話し合いは大事だと思う人が多いのですが、いくつかハードルがあります。私の講演では、「みなさん、会議をする時、選択肢が提示される度に短所を挙げて全て潰したことはないですか。それとも、まず選択肢の長所・短所を全て挙げてから比較して決めていますか」と聞きます。前者でうなずく人が多いのですが、ある時、当然のように後者だという反応があって驚きました。後で聞くと日本でも著しい成長を遂げた外資系企業の社員らで、苦笑いしてしまいました。会議の方法にも選択肢があります。
(次回は1月22日掲載)
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ヘルスリテラシーのある組織の10の特徴(抜粋)
※米国医学アカデミー、2012年
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について