第24回 研究に患者が参加する意義
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2019年7月24日 東京朝刊掲載
「患者参加」(Patients Included)の認証マーク(https://patientsincluded.org/)
医療者が患者と情報や価値観を共有し、患者の自己決定を支援することを意味する「シェアードディシジョンメーキング」(協働的意思決定など)の国際学会に参加しました。開催地のカナダ・ケベックシティーは、世界遺産でもある美しい石畳の旧市街や虹がかかる巨大な滝があり、その多彩な魅力は、多様性を尊重する国づくりを象徴するようでした。カナダの国名の語源は、先住民族の言葉で「村落」や「住居」を意味する「kanata」で、そこに住むすべての人が平等に社会参加する多文化主義を掲げています。
今年のテーマは、「患者指向のシェアードディシジョンメーキング研究」でした。患者不在での意思決定はしない、患者は自身の健康状態の専門家であるとして、その経験を研究に生かすことが目的です。基調講演では、先住民族の健康の研究者が、問題解決のためには、過去の経験や歴史を踏まえて文化や価値観を共有しながら、自己決定を支援する必要があると訴えかけました。さらに、医療の管理職であり、がん患者でもある看護学の博士を目指す院生が、研究に患者が参加する意義は自分自身の価値が高められ、精神的な支えになり、研究後も自分たちに役立つことだと報告すると、聴衆が立ち上がって拍手を送るスタンディングオベーションを受けていました。
この学会は、「Patients Included」(患者参加)という認証を受けていました。参加者の1割が患者で、患者のための静かな休憩室や授乳室が用意されていました。この認証の条件は、次の五つです。
(1)学会の中心テーマに関連した経験を持つ患者が、演題や演者の選定などの計画に参加する(2)学会で取り上げた問題を経験した患者が、発表したり質問したりする(3)事前に公募されたプログラムに参加する患者には、旅費や宿泊費などが支払われたり、参加するための奨学金が提供されたりする(4)患者の障害への配慮があり、すべてのプログラムが患者に開かれている(5)ネットでの参加者のためにビデオが見られる
学会の模様は多くの参加者のツイッターで見られます。「#ISDM2019」で検索してみてください。大会長自らが受付で私たちを出迎え、一緒に写真を撮ってアップしています。多様な人々が参加し、みんなでシェアすることは、私たちがつくる社会に彩りを与えてくれます。もしまた行けるなら、紅葉の時期がいいです。
(次回は8月28日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について