第22回 看護週間 ケアの心を考えて
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2019年5月15日 東京朝刊掲載
聖路加国際大が運営する「看護ネット」
今日は「看護週間」(12~18日)の真っただ中です。母の日と重なった12日は、近代看護の創始者フローレンス・ナイチンゲールの生誕日です。その日は「国際看護師の日」であり、日本でも「看護の日」です。「看護の日・看護週間」には、老若男女を問わず「看護の心」を育んでもらいたいという願いが込められています。それは家庭や地域、職場での、一人一人に対する「ケアの心、たすけ合いの心」でもあります。
これを機会に、看護とは何か考えてみませんか。私は大学で「看護ネット」という市民と看護職をつなぐサイトを作っています。ぜひ人気コーナーの「看護とは」と「よろず相談所」をのぞいてみてください。中にある「看護の定義」にある、米国看護師協会の「健康問題に対する人々の反応を診断して対処する」というのが好きです。例えば、病気への反応として、痛みや不快を感じたり、不安やストレスを抱えたりします。それに上手に対処するためには手助けが欠かせません。医学のように病気を治すよりは、健康や病気をどう受け止めているか、それらとどうつきあっていくかに注目するわけです。看護では「寄り添う」という言葉がよく使われます。
病気をきちんと受け止められたら、治療はどうするか、治療を受けながらどう生活していくか、もし治療を終えたらどうするかなどと、次々に新しい問題への回答が求められます。その多くは選択肢を知って選ぶこと、すなわち意思決定です。医療の進展により治療やケアの選択肢は増えていますが、不確実な場合も少なくありません。選ぶ人の価値観次第となるような難しい意思決定では、迷いや葛藤に「寄り添う」人が必要になります。その時、看護は「その人らしさ」を大切にします。
世界では、そのような意思決定を支援する研究が進んでいます。けん引してきたのは、カナダのオタワにある研究所の看護学の研究者たちで、一人一人に合った質の高い意思決定があるという考え方です。それは、選択肢とそれぞれの長所と短所を十分に知り、自分の価値観と一致したものを選び、意思決定に参加した人がそれに満足することです。
私の研究室でも、その考え方を基にして、みんなで研究を進めています。一緒に意思決定支援の研究に参加してみませんか。「その人らしさに寄り添う心」さえあれば、看護の資格は無くても大丈夫です。
(次回は6月19日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について