第13回 どんなものにも光と影
毎日新聞コラム「健康を決める力」
毎日新聞 2018年7月1日 東京朝刊掲載
サッカー・ワールドカップ(W杯)では日本が決勝トーナメントに進むと思っていました(前回紹介した後知恵バイアスです)。初めて決勝トーナメントに進んだ2002年の日韓大会を思い出します。生きている間に二度と日本では開催されないと決め込み、ネットでのチケット発売では、パソコン操作の技を編み出して何試合も観戦できて(日本戦はダメでした)夢のようでした。
しかし、サッカーには良い思い出ばかりではありません。学生の頃は下手だった上に、高2の時の部活の試合中に頭をぶつけてけいれんを起こし(覚えていません)、救急車で運ばれた(乗る時に意識が戻り「大げさじゃないか」と言ったのを覚えています)のをきっかけに、やめてしまいました。
健康のために草サッカーなどすればよいのに、どこか抵抗がありました。「運動なんて体に良くないよ」という昔聞いた体育の先生の言葉(かなり激しい運動の話でしょうが)を持ち出して言い訳に使ってしまう自分がいます。健康関連のニュースは毎日チェックしていますが、健康に効果のある"最低限の"運動の研究に目が向きがちです。
人には自分の主張や思い込みを支持する情報や、自分に都合のいい情報ばかり集めて、自分の主張を強化しようとする傾向があります。これを確証バイアスといいます。身近な人に「周りの赤いものを全部メモして」と指示して、目を閉じてもらい「青いものは何があった?」と聞いてみてください。見たいものだけを見て、見たくないものは見ていません。医師の診断でも自らの仮説を支持するデータを集めたり、仮説に沿うようにデータを解釈したり、仮説を否定するような検査を避けたりすることがあると報告されています。
ヘルスリテラシーをテーマにしたある講演の終了後に「自分が信じたい情報ばかり探してしまいますがダメですか」と質問されました。この方は確証バイアスを自覚されていました。私は「人には偏見や期待があって、それに沿って考えてしまう傾向があります。だから長所だけの情報や短所だけの情報は要注意です。どんなものにも光と影があります。選択肢を並べて、信じたいものの短所と信じたくないものの長所を十分理解しているか確認しましょう」と答えました。
私も見たくないものは見ないようにしがちです。サッカーをしていた頃とは大違いのおなかを見る時、へこませる癖をやめたいです。
(次回は8月5日掲載)
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毎日新聞コラム「健康を決める力」
- 第1回 膨大な情報、適切に選択
- 第2回 多くの選択肢確保を
- 第3回 選択の自由 幸福感に
- 第4回 その情報、信頼できる?
- 第5回 元ネタは同じでも
- 第6回 信頼できる情報、どこに
- 第7回 情報をどう見極める?
- 第8回 統計理解しリスク回避
- 第9回 医学用語は「難しい」
- 第10回 対話で生まれる理解
- 第11回 記録文書を残す意義
- 第12回 「選択肢は一つ」は疑え
- 第13回 どんなものにも光と影
- 第14回 ギャンブルVS統計学
- 第15回 ストレス対処の「資源」
- 第16回 自己決定と幸福感
- 第17回 精神疾患が教科書に
- 第18回 子ども時に判断力を
- 第19回 手をとりあってこそ
- 第20回 平均寿命と平均余命
- 第21回 困難、課題対処する意思決定
- 第22回 看護週間 ケアの心を考えて
- 第23回 患者から「ティーチバック」大事
- 第24回 研究に患者が参加する意義
- 第25回 患者中心の意思決定のために
- 第26回 ヘルスリテラシーを測る
- 第27回 意思決定できるスキルを
- 第28回 行動できるかが大事
- 第29回 意思決定への自信を測る
- 第30回 自分にとって何が重要か
- 第31回 「からだ」「こころ」「社会」
- 第32回 長寿社会ニッポン 死と向き合う
- 第33回 「医療化」のリスク
- 第34回 「病気」が示す3つの側面
- 第35回 高齢者のコロナ対策
- 第36回 新型コロナ 意思決定の手助けに
- 第37回 数値が示す表と裏
- 第38回 「健康のためになる行動」とは
- 第39回 元ネタ増やす努力
- 第40回 「できる」という自信を持つこと
- 第41回 ヘルスリテラシーを
- 第42回 最終回も「意思決定」について