COVID-19によるヘルスリテラシーの第4の波
8.新型コロナウイルスとヘルスリテラシー
『これからのヘルスリテラシー 健康を決める力』(講談社、2022)
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新たに求められるヘルスリテラシーへの対応
ヘルスリテラシーを健康の社会的決定要因との関係で見ていく上で、それを第3の波のヘルスリテラシーとする見方があります[1]。
第1の波では、医療者が適切に情報を提供しても行動変容が起こりにくいのは、対象の立場に立った提供ができていないからで、そのことをリスクファクターとします[2]。第2の波では、WHOのオタワ憲章で述べられているような、健康の公平性、平等性、エンパワーメントの観点から、個人、グループ、コミュニティが、健康の決定要因をコントロールするために必要なものとして、ヘルスリテラシーを資産(asset)として捉えます[2]。第3の波では、健康の社会的政治的決定要因に関する情報を、理解し、行動できるために必要な力に注目します。ヘルスプロモーションにおける政治的エコシステムすなわち健康の決定要因として個人のライフスタイルの選択の背景にある"原因の原因"への新たな認識を必要とするものです。これはWHOの健康の社会的決定要因委員会の提言と同じであり、誰もが健康の専門家であり、健康の民主化すなわちすべての人々の意思決定で社会の健康か作られることへの着目です[3]。
それに加えて、COVID-19のパンデミックによって、さらに第4の波を見る必要があると提案がされています[4]。今求められるヘルスプロモーションのための対策は4つとされます。
それは、
・科学的リテラシーの向上、
・インフォデミックへの対応、
・健康データ抽出への対応、
・ヘルスリテラシーの政治的側面への対応
です。
対策1.科学的リテラシーの向上
1つ目は、このパンデミックはいかにヘルスリテラシーが、その基礎となる数的能力であるニュメラシーや科学的リテラシーを必要としているかを明らかにしたとしています。連日、COVID-19 に関する様々な数値が報道されましたが、政治家を判断する材料となる国内外での比較には、発生率、死亡率、指数関数などを理解する必要があります。また、個人とコミュニティの健康を守るには、普段からの備えや予防が重要であるという公衆衛生の基本的な知識が必要です。これらの子どもの頃からの教育がより重要になったと考えられます。とくに政治家など重要な意思決定者の特に公衆衛生的介入に関するヘルスリテラシーの欠如は、COVID-19パンデミックの決定要因の1つであるとしています。
対策2.インフォデミックへの対応
2つ目のインフォデミックへの対応においては、ソーシャルメディアなどで病気の発生時に誤った情報や誤解を招くような情報を含む情報が氾濫するという現象が、政治的意思決定に不信感を抱かせるなどして、不適切な行動を引き起こすなどして健康の主要な決定要因になっていることを指摘しています。例えば反ワクチン団体が活用するエコーチェンバー現象(自分に似通った考えの人々とのコミュニケーションに閉じこもった状況)について触れています。虚偽の情報の拡散は、民主主義が世界的に脅かされている中では、健康が新たな方法で政治化されて危険だとしています。
対策3.健康データ抽出への対応
3つ目の健康データ抽出への対応については、デジタルヘルスリテラシーは、新たな批判的ヘルスリテラシーを必要としていると指摘しています。ウェブやアプリなどで個人が健康のために行った情報収集ややりとりしたデータがソーシャルメディアの企業に利用されているためです。イスラエルがファイザーに集団免疫の研究データのためのワクチンの提供を受けたことをあげ、健康データ以外にも様々なデータが抽出されていて、自分自身とプライバシー権をどのように保護できるかを理解する必要があり、子どもにもそのことを教える必要があるとしています。
対策4.ヘルスリテラシーの政治的側面への対応
4つ目はヘルスリテラシーの政治的側面への対応です。このパンデミックは、デジタルソリューションを推進し、デジタル診察の増加のような有益なものをもたらした反面、デジタルトラッキング、予防接種や陰性証明を示すデジタル証明書、人権やプライバシーへの懸念など、それらの使用は激しい政治的議論の対象であるとしています。情報やデータが制限や規制なしに国境を越えて、グローバルな側面を持ち、特に国境を越えた反ワクチン接種キャンペーンを用いて、ヘルスリテラシーがいかに政治的になっているかに注目しています。
ヘルスプロモーションにとって、ヘルスリテラシーをこれらの新しい政治的側面とともに再検討することは、「Health in All Policies(全ての政策に健康の視点を)」を新しい次元に拡大して、それに伴う政治的課題を引き受けることだと締めくくっています。
これら4つについて共通しているのは、この10年の世界的なソーシャルメディアの普及を伴うデジタル化による情報とコミュニケーションの変化の影響です。その便益と共にリスクを抱えている状況を、グルーバルな視点から、保健医療のみならず、家庭や地域、学校、企業、政治が共にヘルスリテラシーのために行動を起こす必要があることを意味しています。
(中山和弘)(公開日 2023年3月7日)
文献
[1]De Leeuw E. The political ecosystem of health literacies. Health Promot Int. 2012;27:1-4.
[2]Nutbeam D. The evolving concept of health literacy. Soc Sci Med. 2008;67:2072-2078.
[3]CDSH. Closing the Gap in a Generation: Health Equity through Action on the Social Determinants of Health. Final Report of the Commission on Social Determinants of Health.2008. http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241563703_eng.pdf
[4]Kickbusch I. Health literacy--politically reloaded. Health Promot Int. 2021;36:601-604.